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国際競争では「よくて、早くて、安くて」が求められる。 企業は「納期・品質・コスト」のいずれかで、どこにも負けないものを持たないと、生き残りは難しい。
二つは、企業間競争・シェア争いが激しい時代である。 どんなブランドであれ一日で消えるのも珍しくない。
不祥事が、瞬く間に企業の存続さえ危うくするほどのブランド崩壊を招く。 量の拡大が望めないなか、あるブランドが消えれば、そのシェアをすぐに他の企業が奪う時代である。

残念ながらほとんどの企業は、ここまで会計にこだわっているとは思えない。 おそらくは経理に任せ切っている人が多いのだろう。
しかし、会計というのは本来は経営の結果を、あとから追いかけるだけのものではないはずだ。 どんな正確な数字であっても、それが遅れて出てくるようでは、早い決断などできるわけがない。
会計とはこういうものですよ、といった常識にとらわれすぎると、思わぬまちがいTに在籍していた当時、米国のGMの部品費一つひとつの「基準原価」を設定して、Tははたして「いくらのムダ遣いをしているのか」を、バランスシート上で一目でわかるようにしようと、さまざまな試行錯誤を重ねたという話は、序章で紹介した。 結局はTの経営陣が、「経営上の問題がひとりでに浮かび上がってくる」バランスシートをつくりたいと願った結果だ。
経営者は会計資料一つとっても、経理部門に任せるのではなく、本当に経営に役立つものをつくろうという努力が必要だ。 Tの場合も、そうしたバランスシートをつくることで初めて、日々の改善が「数字」としてはっきりわかるようになっていった。
百種類・何千種類もの商品をつくる力を備える必要がある。 こうした時代にあっては、単に能率を追求するだけでは仕事にならない。
徹底してムダを排除した効率を追求したモノづくりでないと、生き残るのは難しい。 私たちはいろいろな常識にとらわれてきた。
たとえば、「在庫は資産」と言われてきたが、売れる見込みのないものまでが資産として扱われ、帳簿に載ってしまうから始末が悪い。 不良資産を残しておいても仕方がないとは思っても、会社の業績を少しでもよく見せるために、つい資産に計上してしまう人も多い。
実際にはそんな操作をしても何の意味もないのはわかっている。 「在庫は資産」などという常識にとらわれていると、決算は黒字なのに、肝心のキャッシュはどこにもないといった事態に陥る。
昔から言われている「勘定合って、銭足らず」の状態だ。 経理の常識よりも、時代感覚、現場感覚のほうが大切なのだ。
スタッフがよく使う言葉に、売上げに対する販売費・一般管理費は「A%かかります」とか、利益は「17%が水準です」という表現がある。 こうした数字は所詮は同業他社の平均値か、教科書に載っている数字にすぎない。

自社のあるべき姿を考えずに、こうした数字ばかりを追っていると、不思議なもので、いつまでもこの水準以上にいくケースはない。 これでは同業他社との横並びから脱しきれない。
生産現場においても、たとえば「不良率三%」といった数字を前提にしてしまうと、そこから設備投資額もはじいてしまい、下げる目標も、せいぜい「二%」がいいところだ。 要はある程度の不良は仕方がないと考えるから、この数字から脱け出せないにすぎない。
思い切って「○・一%」とか「不良率ゼロ」を目標に掲げれば、まったく違った発想になってくる。 O氏は、目標について「なんでも半分」と言っていたが、困難な目標だからこそまったく新たな発想が求められるのをよく知っていた。
これからの時代は、目標を明確に設定し、手法は自分たちの手でつくり上げていく時代だ。 テキストレスの時代企業のスタッフと話して感じるのは、いつもお手本をどこかに求めようとする意識が強すぎるという点だ。
T生産方式への興味も、お手本探しから発しているようだが、実際には現場における日々の改善を抜きにしては、導入も定着も難しい以上、スタッフの求めるものとは少し違っているようだ。 現在、世の中に出ているテキストのほとんどは、つくれば売れた時代のものである。
いまという時代の生産方式については、まだテキストと呼べるようなものははっきり言って存在しない。 しかも、現在の管理職の多くは、つくれば売れた時代に育ったため、さしたる苦労もしていないし、世界と競争するための素地ができていない。

しかし、これまでやってきたことをそのまま続けていては、ムダの垂れ流しになってしまうし、当然国際競争力などつくはずもない。 これでは企業としての存続は難しい。
かつてTK氏は、終戦直後にもかかわらず、「三年で米国に追いつけ。 そうでないと日本の自動車産業は成り立たない」と徴を飛ばした。
まだ日本の自動車産業がどうなるかわからない時期から、米国の自動車産業を意識して、日本独自のモノづくりを実現しようとしていた。 だからこそバランスシートの上に、GMとの比較が一目でわかるようにして、その差を一円でも埋めるために、日々の改善を積み重ねる。
そこには、国内同業他社との横並び意識など微塵もない。 過日、T九州工場の人と話をしているときに、こんな話題が出てきた。
T九州工場の一人当たりのレートは、米国の大手自動車メーカーよりもかなり安い。 ここでつくった車を米国に持っていっても、十分に採算がとれるレベルにある。
にもかかわらず、さらに三○年前のレベルにまで落としたいと真剣に考えている。 もちろん世界一の品質レベルは維持したままで、外国ではなく、九州工場でこの数字を達成したい、という。
達成するには、現状の延長線上ではまず不可能である。 あらゆる部門について、ゼロから見直すという作業が欠かせない。
それにしても、「これで十分だ」と安住するのではなく、高い目標を掲げ、永続的に改善を続けようという、Tの姿勢は立派だ。 モノづくりを取り巻く環境が大きく変わってしまった以上、モノづくりの仕組み自体を変えなければ、という問題には気づいていても、なかなか踏み切れないでいる企業が多い。

過去にはこのやり方で成功してきたし、いまでも何とかやっていけているではないか。 目指すのはオイルショック前のレート1人当たりのレートをオイルショック前の、昭和四五〜四六年のレベルに持っていくことはできない企業として、何を目標とするかを掲げる。
Tは、設立当初から米国の自動車メーカーに勝つのを目標にやってきた。 ある電機メーカーは、「世界一のコスト競争力」を目標に掲げている。
もしも当面の「生き残り」だけを考えるなら、何も無理をする必要はなかろう。 いまのやり方を少し変えていくだけでも何とかなるかもしれない。
しかし、どこにも負けないだけの競争力を手に入れようとするならば、企業の徹底したスリム化と、たえずゼロから見直しをしていく姿勢が欠かせない。 たしかに経験のないやり方に変えていくには勇気が必要だ。
新しいやり方と、慣れたやり方のどちらがいいかと問われれば、ほとんどの人が慣れたやり方を選ぶに決まっている。 しかし、モノづくりに関して言えば、新しいやり方と既存のやり方のコストがほぼ同じなら、新しいやり方を採用したほうがいいに決まっている。
新しいやり方には、改善の余地が無限に残されているからだ。

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